2018年6月号 No.538

発行 : 2018年6月16日
【 巻頭言:主任司祭 豊島 治 】


認めます

主任司祭 豊島 治

 梅雨にはいり、当然ながら雨の降りしきる日々をすごしています。外に出て活動できない塞いだ気持ちを和ませてくれる神さまの被造物のひとつに「紫陽花」の存在があります。
 雨のなか、濡れて輝き存在感をしめすその花には、「この一日も素晴らしい日」という神さまのメッセージを感じます。多摩教会の構内に紫陽花はありませんでしたので、日常の風景から探して愛でることをお勧めします。

 梅雨にはいる前後のニュースは、外交のイベントと併せて悲惨なものもありました。新幹線内殺傷事件については衝撃・恐怖が広がり、世論ではセキュリティ問題も取り上げられました。MXTVの事件後調査ですが、新幹線乗車前のセキュリティチェック実施の是か非かのアンケートでは、全乗客に対して実施が810人、ランダムでの実施が732人、必要なしが654人というのです。大きな事件ですし、自分の身にふりかかることを想像してみると、環境整備しセキュリティを厳しくしてみるという意見もわかります。
 ただ、加えてその後の報道各社の取材で人物像が浮かび上がってきましたが、注意をひいたのは、加害者とされる人の心情にあった「自分が何故生きているかわからない」というものでした。母親による「あの子は自殺はあっても、他殺は考えられなかった」というコメントの入った続報も、生きていることへの絶望感が伝わってくる内容でした。
 本人は経済的貧困のなかにいませんでしたし、家族関係の問題も祖父母と養子の関係を新たに構築しており、お金ない・家がないという問題に対しての社会的システム対策は行っていたのですが、それでも「生まれし それ故生きる」という根本の充実感には至らず、「消えてしまいたい」という心情吐露になったということでした。

 「生まれし それ故生きる」という意欲は、存在価値を感じられるかどうかだといいます。それは私たちにとっても同じで大切です。インターネットで自分を発信して、そのコメントを得る機能(例えばSNS)が利用されているのをみると、存在価値を繰り返し感じていないと誰もがひとりでいられない気持ちを持っていることがわかります。よく使われる、アイデンティティを「自分が自信をもっていること&自分のよりどころ」と定義するなら、アイデンティティの構築は、自分以外との関わりと評価によって成るのでしょう。私たちは、モラルだけで全行動を制御できるほど完全ではありません。「自分の存在を認めてくれる方・家族・仕事・人を失いたくはない」という気持ちも持っているので、お互いのいのちを大切にします。
 私たちキリスト者は、神さまによる「(すべてをご覧になって)きわめて善かった」(フランシスコ会訳)という創造のときのことばと、「あなたは、わたしの愛する子」ということばをはじめとして、自分を見つめていきます。ミサの中で呼びかけられるみことばと聖体とで、はじめの関わりを確認できます。そして、派遣された場で、自分のペースでその先を構築します。

 一助になるかはわかりませんが、6月17日には拡大入門講座を実施に「被災地の心のケア」として傾聴を実践してきたシスター丸森から当時の様子と感じたことをうかがいます。
 また、7月7日には、東京カテドラルで「(国籍をこえて)人々が出会うために」というShare the Journey東京アクションの企画が行われ、私も実行委員の一人で企画しています。詳しくはチラシ、またはカリタスジャパンのホームページ( https://www.caritas.jp/wp-content/uploads/2018/05/tokyo1807.pdf )でご確認ください。
 このアクションデーのあとに、本企画と連動した多摩教会として実施したリーチアウトフォト(reach out = 手を差し伸べる)を公開したいと思っています。

 紫陽花は、次のシーズンの花芽を守るため、花が咲いたらできるだけ早めに花の部分を取るものだと、昔世話になったシスターから教わりました。今の社会が求めているものの一つに、自分の存在を認める欲求があることも気にしながら、今のことが終わったら、次の神様のすばらしさを見つける一歩をはじめて、その繰り返しをしながら自分自身を手入れしていきましょう。

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【 お知らせ 】


「初金家族の会」からのお知らせ

 6月1日の初金は、聖ユスチノの記念日。豊島神父様は聖ユスチノについて次のように話された。
 「ユスチノは、多くの宗教家などより見聞きしたものを心にとどめ、見直し、祈りの中で聖霊に導かれ多くの書物を残した。その考えの基本は『聖体と御血』を重要視したものであり、現在にも未来にも通ずるキリスト教の教理と実践の基礎となるものへと導いた。
 6月は司祭の月でもあるが、司祭はいろいろストレスに曝らされる場面も多い。そのため神との対話、祈りにより対応する必要がある。祈りとは情報を単なる知見から、生きる喜びに転換、高めることであり、神の愛を感じるのもこの時である。この愛と希望の提案をご聖体のうちに求めたいと思う」

 初金家族の会では、3月に豊後・平戸・生月島巡礼旅行に参加された中嶋誠さんのお話を聞いた。大分県関連では、多くの史跡があり、布教活動が活発に行われていたが、信仰の伝承が途絶えたことなどが紹介された。この地で功績を残した不遇の宣教者L.Deアルメイダに言及し、西洋の医療技術を持ち込み、日本最初の病院の開設と布教をしたこと、55歳まで叙階できなかったが、不屈の意思で1万人近い人々に洗礼を授けたことなど、感銘深い話であった。提供された資料はA4で20ページ及ぶもので、当時のキリスト教の宣教事情を知るため非常に参考になった。また、松原睦さんが準備された「南蛮貿易年表」も添付され、充実していた。

 「初金家族の会」は初金ミサの後、信徒会館で貴重な体験を披露、分かち合い、信仰を語り合う、信仰家族の絆を深め合う楽しい会です。
 7月は道官芳郎さん(俳人協会会員)に「俳句に詠まれたキリスト教」というテーマでお話いただきます。多数の方の参加をお願いします。