先月の作曲家活動に続いて、今回は沈香(じんこう)という香木を60年以上にわたり学問として、趣味として探求されている方をご紹介しましょう。それは広報部で、長年私たちの教会のために献身的に奉仕を続けられている松原 睦さんです。松原さんは上智大学在学中から香料研究の大家に師事し、「香りを聞く」という分野で知識と経験を深められ、1990年に会社を退職された後、さらに多くの香道書を読破し、日本における香文化の歴史の研究を続けられました。そして、その結果を「香の文化史〜日本における沈香需要の歴史〜」と題する本にまとめて出版されました。この本は出版社《雄山閣》の生活文化史選書シリーズの一つとして今般発刊されたものです。
私たちカトリック信徒としては、香には特に深い関係を持っています。それは新旧を問わず、聖書ではいたるところで香油や乳香という言葉に出会います。先ず思い出すのは、幼子イエスが誕生された時、東方の占星術の学者が贈り物として捧げた宝物に乳香がありました。イエスがベタニアで、高価な香油をかけられる話もありますね。ミサの時、司祭が献香のために香炉を振られると、香りと煙が祭壇からそのまま天の国に上っていくような気持ちになります。松原さんによるとこの献香の香は天然の香を人が数種合わせた合香というものだそうです。
松原さんがこの本で書かれている香は、その代表的なもの、沈香についての歴史です。香の文化が世界のどこから始まって、いつ日本に到来し、どのように日本人の中に入ってきたのかを、文献を参照しながら、書き綴っておられます。一方で、この沈香の香木そのものが、貴重な存在になり、だんだんと入手が難しくなっている現実にも触れておられます。私も一時アラブの国で働いたことがありましたが、そこのスーク(市場)で小さな香木を買うために延々と値引き交渉をするアラブの人たちを見ました。それほど、香木の値段が高くて、買いたい人にとっては大変だということでしょう。私もお土産として、5センチくらいの沈香を買いましたが、値引きの努力もむなしく、1万円くらいとられたと記憶しています。
私はこれまで香のことをあまり深く考えたこともなかったのですが、この本を読んでみて、香りの文化を少しばかり覗くことができました。
〜 日本における沈香需要の歴史 〜
著 者:松原 睦
単行本:239ページ
出版社:株式会社 雄山閣(2012/04)
発行日:2012年4月5日 初版発行
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