「オアシス」さがそ!
バイーシャは駱駝を引きながら、まっすぐ前を見て歩いていました。
少し後ろから息子のアユーブがついて行きます。
家を出てから何カ月も過ぎました。
石ころが混ざった砂地が見渡す限り続いています。昨日もその前もズーっと同じ景色の中を歩いてきました。
バイーシャは眉根にしわをよせて黙ったまま、ただただ前を見ています。「親父も爺さんもこうして歩いていたんだよなあ。何か良いことがあったんだろうか?」
彼の父親は7頭の駱駝を残して8年前に亡くなりました。バイーシャは一生懸命に働きました。今では駱駝も20頭に増えてアユーブも15歳になりキャラバンについてくるようになりました。バイーシャは歩きながら考えていました。「砂嵐だの盗賊だの飢えや渇きを心配しながらいつもいつも歩いてる。俺には何があるんだろう?取りあえず今夜の寝場所を見つけなきゃ」空には一番星が光り始めました。
夜明けとともに彼らはまた歩き出しました。
今日は何日ぶりかでオアシスに着きます。
夕方近くになって遠くに木立がみえました。バイーシャの顔が少しほころびました。
アユーブは父親のこの笑顔がとっても好きです。いつもしかめ面をしている父がこの時はとても優しく見えるのです。
父親の笑顔はアユーブにとって「オアシス」みたいなものです。駱駝たちの足も少し速くなったようです。 (おしまい)
最近人生の道のりが長く長く感じられます。「前途ほど遠し」といったところでしょうか。世の中は思い通りにならないようにできているのですね。
できれば、ただ静かに暮らしたいだけなのですが、時々自己嫌悪に陥り、時には思うようにならない事に腹をたて、ある時は自分を分かってもらえなくて落ち込み、人と争いをして気まずい思いをし、夫婦喧嘩でもう顔も見たくないと思い、、、。
でも、ふと目を上げた時の青空、どこからか聞こえてきたナポレターナ、釣れもしないのに釣り糸を垂れてボーっとしている時、湯船につかってふーっと息を吐いた時、思いもよらず良く撮れていた写真、のめりこんで読んでいる本、、、。
気が付けばちょっとした「オアシス」がそこかしこにあるものです。
でも、本当の「オアシス」にはいつになったら行けるのでしょうか?