典礼講演会要旨について

カトリック多摩教会では、第二バチカン公会議開会50年「信仰年」にあたり、『聖書と典礼』の編集責任者で上智大学講師の石井祥裕(よしひろ)先生をお招きし、11月11日のミサ後に、「公会議による典礼刷新の意義と典礼奉仕、特に聖書朗読について」というテーマで約1時間の講演会を開催しました。参考までに講演会で配布された資料を下記のとおり掲載いたします。

2012年11月11日
カトリック多摩教会

『聖書と典礼』編集長 : 石井 祥裕 氏


第二バチカン公会議開会50年「信仰年」によせて
 <公会議による典礼刷新の意義と典礼奉仕、特に聖書朗読について>

はじめに

 第2バチカン公会議 (1962-65)から50年、その最初の課題に取り上げられたのは典礼刷新。
『典礼憲章』(1963)から現在のわたしたちの典礼生活は始まる。
しかし、この公会議による抜本的な典礼刷新の背景には、遠くには19世紀半ばからの、近くは20世紀初めからの典礼運動の歴史がある。近くからでも100 年。わたしたちが取り組んでいる課題には長い教会の歩みがあることを思い出しておきたい。

1.20世紀初めの呼びかけ

 19世紀半ばからヨーロッパのベネディクト会修道院では、古典的なローマ典礼のミサや聖務日課を柱とした修道生活を(それに結びついたグレゴリオ聖歌)を復興する運動が始まっていた。やがて、それは典礼の中に信徒の参加を積極的に呼びかけようとする方向に向かう。これらを受けて、教皇ピウス10世 (在位1903-14)は『教会音楽に関する自発教令』(1903)の中で次のような呼びかけを行い、典礼への「行動的参加」という言葉を初めて使った。

「神の家は、信者がキリスト教精神をその第一の、かつ不可欠な源泉から汲むために集まるところです。
この源泉とは、聖なる秘義と教会の公的祭儀的祈りへの行動的参加のことです」 (⇒典礼憲章14)

これに呼応して、信徒の典礼参加を全般的に推進しようという典礼運動が始まる。
「典礼はすべての信者の祈りである」との発見を軸として。

2.両大戦間の典礼運動の発展と深化呼びかけ

 第一次世界対戦後、典礼運動は共唱ミサの試みとともにドイツ・オーストリアで大きく発展。
 それらを通じて、典礼の意味が深く考えられていくようになった。

 a) 典礼によって教会共同体は建てられていく。

 b) 典礼参加をとおして、キリスト者個々人の全人的育成がなされる。

 c) 典礼は秘跡を中心とするが、ことばとしるしをとおして歴史的な神の救いの神秘を具現する。

 d) キリストの現存は聖体のみならず、あらゆる典礼行為に及んでいる。歌、祈り、聖書朗読……

 e) 典礼は、神のことばとの生きた交わり。信者が聖書をとおして神のことばと触れる現場は典礼

 f) 典礼は、教会生活のあらゆる活動と結びついている。それらの頂点にして源泉。

 h) 歴史的研究が示すように、典礼には変わらない本質的なものと変遷してきた要素とがある。

3.第2次世界大戦後、典礼改革と典礼生活の促進への歩み

 教皇ピウス12世(在位1939-58)は、これらの典礼運動や典礼の歴史的研究や神学的思索の展開を受け1947年の典礼に関する回勅『メディアトル・デイ』を発布し、典礼運動の基本的意図を認め、前進させた。
 今日につながる典礼改革は1950年代の聖週間典礼の改革から始まる。ただし、本格的に、教会刷新全般とのつながりの中で、抜本的な典礼刷新(典礼改革)と典礼生活の促進を全教会の優先課題としたのは第2バチカン公会議である。

4.典礼参加のさまざまな側面

 『典礼憲章』は、20世紀初めからの典礼参加というテーマを三つの側面から語る:

 1) 行動的参加   2) 意識的参加   3) 充実した参加

 これらを狙いとして上記2のポイントを考慮してすべての典礼祭儀が改められていった。

 教会共同体のメンバーは典礼奉仕のそれぞれの役割を果たすように ⇒ 行動的参加

 典礼における国語使用を原則とするように ⇒ 意識的参加

 これらを通じて、教会は神の民すべての典礼への「充実した参加」を目指す。

5.典礼における聖書を豊かにしたことと朗読奉仕の意義

1)典礼刷新の決定的な意義:聖書朗読と聖書に基づく歌がだんぜん豊かにされた。

  a) 主日には三つの朗読を基本 : 第1朗読 / 第2朗読 / 福音朗読
      (※第1朗読は大体、旧約聖書 / 復活節は使徒言行録)

  b) 聖書朗読の周期的配分(主日A・B・C年 / 週日2周年)

  c) 典礼暦年と聖書朗読の展開を改め、キリストの秘義の1年として明確化した。

    待降節・降誕節と年間のつながり

    四旬節・復活節のより教育的配分 (入信準備・回心の導き)
        聖書が告げる神の救いの計画、神賛美の伝統の中に一人ひとりが参加
        国語化は、聖書朗読の宣教的、教育的意義も強化した

  d) ことばの典礼と感謝の典礼とのつながりが明確化された。

    「二つの食卓によって教会は霊的に養われ、さらに教え導かれるとともに、ますます聖なるものとなっていく。
    神のことばにおいて神の契約が告げ知らされ、
    感謝の典礼において新しい永遠の契約そのものが更新される」 (朗読聖書の緒言10)

2)聖書朗読の意義

  a) 神が語る、キリストが語る
    「書かれたものとして伝えられた神のことばそのものによって、今もなお『神はその民に語る』」 (同12)
    「聖書が教会で読まれるとき、キリスト自身が語る」 (典礼憲章7)

  b) 神のことばを聞くこと
    「教会は神のことばを聞くことによって建てられ、成長していく」 (緒言7)

  c) キリスト者の神のことばへの任務
    「すべてのキリスト信者は、霊による洗礼と堅信によって神のことばの使者となる」 (同 7)

  d) 聖書朗読のしかた
    「聞き取れる声で、はっきりと、味わえるように読む朗読者の読み方が、何より、
    朗読によって神のことばを集会に正しく伝えることになる」
 (同14)

3)留意点

  a) 文字を音声にするだけの「読む」ではない「今語られる神のことばを告げる奉仕」

  b) 聞く奉仕 (『聖書と典礼』などの効果的使用法)

  c) 日本の教会の現状と課題:朗読後の対話句、朗読福音書など